あまりにもつらく悲しいレースウイークとなったポルトガルGP。最愛の弟、江紀を交通事故で亡くし、失意の中でポルトガルに向かった。サーキットに入れば気が紛れたが、ライディングに集中することだけを考えるようにした。チームも、江紀の死を悼み、裕紀のことを全力でバックアップしてくれた。
その思いに応えるように、裕紀は快走した。ドライで始まったフリープラクティス1でトップタイムをマーク。続くフリープラクティス2は、開始直前から雨がパラパラと降る不安定なコンディション。ここでもトップにつけ、幸先よいスタートを切る。
フリープラクティス3ではトップと0.5秒差の6番手につけ、公式予選を迎える。この日、左腕にしていた喪章を右腕に変えた。江紀のステッカーがカウルの右側に貼ってあったからだ。セッションが始まると、激しいタイムアタックに転倒するライダーが続出。そんな中、裕紀は冷静にセットアップを詰めながら、セッション終盤にタイムアタックに入る。実は、タイヤ交換のタイミングを外したこともあり、ニュータイヤを使わずに、ユーズドタイヤで走りきっていた。順位こそ7番手となったが、決勝に向けていい感触をつかんでいた。
迎えた決勝。3列目から好スタートを切った裕紀は、3番手で1コーナーをクリア。2周目に入るホームストレートでルティをかわして2番手に浮上。トップをゆくブラドルを追う。そのままトップを奪いたいところだったが、ルティに抜き返され3番手に下がる。その後、ルティが転倒、ソフォーグル、シモンと三つ巴の2番手争いとなる。レースも折り返しを迎えるころ、ソフォーグルのペースが上がらないのを見たシモンが前に。これに呼応するように裕紀もソフォーグルをかわし3番手につける。このまま表彰台圏内をキープしたいところだったが、後方から追い上げて来たイアンノーネが、あわや接触というパッシングで強引に裕紀を抜いていく。想定外のライバルが現れ、リズムを崩した裕紀は、前の3台から離されてしまう。一方、イアンノーネは、その勢いのままトップに立つが、残り5周を切ったところで転倒。裕紀が再び3番手に上がり、そのままチェッカー、今季初表彰台を獲得した。
ポディウムには、江紀と共に上がった。ブラドルとシモンも裕紀を気遣い、シャンパンファイトはせず、軽く献杯のみをしてくれた。裕紀は、江紀にシャンパンを飲ませ表彰台を後にしたのだった。
高橋裕紀「レース序盤は最終セクションがやや遅かったので、ブラドルやシモンの後ろにつけていましたが、イアンノーネが来たときは驚きました。イアンノーネには悪いですが、今回は、3位に入れてラッキーでした。江紀と一緒に表彰台に上がることができましたから。このレースウイークは、本当に集中力を保つのが難しかったです。チームを始め、多くの方のサポートに感謝いたします」